(1) 家紋とは「ご先祖さま」を表すシンボル

家族で紋付き着物姿の写真

- 出自や血縁を示す家紋は「心を伝承」するカタチ -

紋章は西洋・東洋を問わず、人物が所属する社会集団の“標識”として機能していました。日本では、明治時代まで庶民は姓を名乗ることを許されておらず、家紋が「家系や血縁」を表す手段であり、家族のシンボルでもありました。 日本人は先祖を「心の拠り所」にすることで、家族が結束できていました。だから、家紋は先祖を意識させてくれる家の象徴であり、女紋も同じく女系の先祖を意識させてくれる血縁の象徴でした。また、父や祖父から継承した家紋を、あるいは母や祖母から継承した女紋を子供へ譲る行為を通じて、両親はその受け継がれた「心」を伝承させました。 その「心の伝承式」とも言える日が冠婚葬祭だっだのです。とくに子供が大人になる「冠」、子供が結婚する「婚」、両親や祖父母が死ぬ「葬」では、古くから家族は「心の絆」をとりわけ重視していました。現在でも正しくは、七五三や十三参りに「紋付きの着物」を子供に着せ、お嫁入道具に「紋付きの着物」を娘に持参させ、そして、親族の葬式には「黒紋付きの着物」を家族全員で着ます。


- 家紋を通して、家族の絆を確かめ合える -

あなたが家族の一員であること、あなたが真綿と連なる血縁を持つこと。その普段は見えない絆をお互いが確かめ合える日だからこそ、冠婚葬祭は大切な行事なんだと思います。そんな大切な日に、家紋や女紋は、血縁によって構成される親族集団の表象し、先祖からのつながりで継承されていくのです。 あなたが「家紋や女紋」を考えること。つまりそれは、あなたの先祖や両親との「過去の絆」を大切にすることであり、あなたの子供や孫との「未来の絆」を大切にすることなんだと思います。 この「両親がいるからあなたがいて、あなたがいるから子供がいる」という絆は、身近すぎて気付かない、あなただけの「アイデンティティ」とも言えるのかもしれません。


(2)家紋とは、親族が「心をひとつ」になる象徴

家族と親族全員で紋付きの着物

- 女性が「心の拠り所」にする知恵 -

仏教の「女三界に家はなし」という言葉をご存知でしょうか。これは「女は一生の間、広い世界のどこにも安住の場所がなく、定まる家もない」という意味です。現代社会と少し様子が違いますが、女性は結婚で慣れ親しんだ生家から離れ、血縁のない婚家で生活し、死んでも生家の墓に帰られませんでした。 地縁や血縁がない嫁ぎ先では、やはり「心の拠り所」が必要というのも、人間の心情です。だから、伝統的な「お嫁入り道具」とは、両親の立場から見て、そんな未知で不安な場所へ旅立つ娘の心境を想像し、それに共感し、娘の幸福を祈るというものでした。そんな両親の気持ちを込めたシンボルとして、お嫁入道具の一つひとつに、出自や血縁を示す家紋・女紋を付けて、娘に持参させたのです。


- 親族が「心をひとつ」になる知恵 -

きちんと嫁入り道具を誂えることで、里方の葬式や法事、結婚式などに親族が集まるとき、他家に嫁いだ者たちの紋がすべて揃います。同じ家紋や女紋の着物姿になることで、同じ血筋の者同士で絆を確かめ合えます。きっと共同体の連帯感が深まり、親族が「心をひとつ」にまとまるはずです。 日本は「心をひとつにする」という表現が成り立つ社会です。集団が幸せになれば、集団に属する自分にも恩恵が返り、結局は自分をさらに幸福にしてくれる社会だったはずです。しかし、個を重視し、社会の煩わしさを嫌い、面倒は避けて通る時代になりつつあります。


- 親が子の幸せを願い、家族が絆を生み出す知恵 -

「かつてのように常識ではないし、古くさい考え方だから、礼装の着物は要らないよ!」と言われると、昔の日本人を否定されているようで、とても悲しくなります。いつの時代でも、親は子の幸せを願い、家族は絆を求め続けてきました。着物には1200年以上の知恵と工夫が詰まっています。それは、いま以上に貧乏で、いま以上に命が儚い時代で生まれた「家族が幸せに生きる」知恵なのです。 ピラミッドや徒然草に「最近の若者は、なっとらん」と書かれてあるように、いくら文明が発展しようとも、人間の心理・心情はあまり変化していないはずです。だから、先祖から受け継ぐ家紋・女紋の素晴らしさを知り、面倒くさいと言わずに。礼装の着物姿で大切な日を迎えてほしい。それが私たちの願いです。


(3) 大切な日の「儀礼性」を高める様式美

結婚式 _家紋

- 晴れ(ハレ)と褻(ケ)を区別する役割 -

人生のオンとオフ。ハレ(大切な日)とケ(普段の日)をくっきりと分けるためには、儀礼式を演出する「かたち」が必要です。 大切なハレの日に、同じ家紋を付けた着物を親族みんなで羽織ることで、共通祖先意識といえる連帯感が生まれ、血縁の絆を確かめ合うことができました。そして、同じ先祖を着物に背負うことで、一族の名に恥じぬように礼節を尽くす気持ちで臨み、その儀礼性を高めていました。


- 正式な礼装姿が醸し出す品格ある美しさ -

結婚式やお葬式で、親族が黒紋付の着物姿で居並ぶ様子は、それだけで身の引き締まる荘厳な雰囲気を醸し出してくれます。同じ血縁集団の構成員として、同じ紋章で連なる礼装姿は、どんな公式の舞台にもふさわしい格式を演出してくれるはずです。 ハレの日とは、日常を控えにおいて招く特別な時間と空間です。衣食住でくっきりとハレを表現することが、家族の祈りに通じると信じ、約束事として継承してきました。家紋や女紋を付けた着物は、特別な時間と空間で「家族の連帯感」を演出し、儀礼性を高めるために大切な役割を果たしていたのです。


(4)男性優位の社会で「嫁の財産権」を示す手段

屋根瓦の家紋


- 生家の心を紋に宿すことで、女性は私権を保てた時代 -

奈良時代から続く律令国家では、土地建物・家の仕事・家財道具すべてが家父長の財産であり、その財産のすべてを息子が相続しました。戦前までの旧民法下でも、女性が財産を所有する権利を認められませんでした。 そんな社会の中で、女性には「財産権」を表明する手段がありました。それが、お嫁入り道具に付ける「家紋・女紋」だったのです。生家から持参した着物や道具、あるいは生家からの贈答品などに紋を付け、それらを男が勝手に処分すると、村中から非難されたそうです。家紋や女紋という「かたち」に生家の心を宿すことで、女性は私権を主張できていたのです。


- 嫁(娘)の不躾は「生家の恥」とされる -

さらに、風呂敷や帛紗、万寿盆などに生家の家紋や女紋を付けて、お嫁入道具として現在でも持参するのも、その財産権の名残といえます。嫁として重要な役割を果たすときに配る贈答品の多くは、生家の両親が出資者であり、その贈答品の出資者は誰かということを紋付きの風呂敷、帛紗、万寿盆で示すようになりました。 また、「嫁(娘)の不躾は、生家の恥」という気概から、娘が血縁集団の代表として礼を尽くせるように願いを込めて、両親は紋付きの風呂敷と帛紗をお嫁入り道具として用意したのです。婚家を基盤とした親戚づきあいよりも、生家を基盤とした女性達の付き合いでこそ意味がありました。


(5)親が子を「一人前」として認める証


鯉のぼりの家紋

- 子供が成長を自覚するための通過儀礼 -

冠婚葬祭の「冠」とは、子供が大人になっていく過程で通る儀礼式です。外国の子供たちは、宗教の祭典や儀礼に参加することで、少しずつ「大人の自覚」が芽生えていくそうです。しかし、宗教が根付いていない日本では、その宗教が果たすべき役割を、七五三や十三参りなどの通過儀礼が担っているのです。 その証拠に日本は世界に類を見ないほど、多くの「子供の通過儀礼」がある国です。お七夜・お宮参り・お食い初め・初誕生・初節句・七五三・十三参りが古来より続いており、さらに現代ならではの通過儀礼として、入園式・入学式・卒業式・成人式があります。


- 紋付き着物が大きな役割を担う通過儀礼 -

子供の成長にとって大切な「冠」の通過儀礼では、ケ(普段)とは違う特別な「衣食住」で、ハレを演出することが大切です。子供も大人も紋付き着物を身にまとい、紋付きのお椀やお皿を使用して、尾頭付きの鯛などを食し、お祝いの掛け軸などを飾ります。 紋付き食器を用意することは難しくても、紋付き着物を用意することはそう難しくありません。ハレを演出する衣食住の中でも、日本人は「こころを着る」と言って、古くから「ハレ着」を大切にしてきました。七五三の由来である「3歳の髪置きの儀、5歳の袴着の儀、7歳の帯解きの儀」にしても、成人式の由来である「元服加冠の儀」や「十三参り」にしても、普段の服装とは違う正式な紋付きの着物姿になることで、大人の意識が芽生えていく通過儀礼でした。


黒紋付着物_喪服 - 19の厄払いで、娘に喪服を作る理由 -

また紋付き着物を「着る」だけではなく、家紋・女紋付きの着物を子供に作ってやることで、両親は子供を一人前の大人として認める証となります。たとえば娘の19の厄年では、第一礼装のハレ着である黒紋付き着物、つまり「喪服」を娘のために誂えます。これは、五つ紋が「先祖・両親・兄弟・親族」を表しているので、ご先祖様のご加護で邪気を祓う意味があるそうです。 そして、まだまだ子供は子供だと思いつつも、数え19歳(満18歳)は、ひとりの大人として扱われ始める年齢であり、これからは礼節をきちんと身に付けた大人として立ち振る舞って欲しい、そんな願いを込めて、最初に作る娘の着物には、娘が19歳になるタイミングで、最も大切な第一礼装の着物「喪服」を誂える方が多いのです。


花束贈呈
- 19の厄払いで、娘に喪服を作る理由 -


自分のエゴではなく大切な人のために、正しく礼装姿なれる人が「大人」と言います。身の美しさと書いて「躾(しつけ)」となるように、子供が欲しいモノを買い与えるのではなく、また子供が着物を不要と言うから要らないのではなく、大切な日に自分の役割を果たすために、そして大切な人に礼を尽くすために、礼装の着物を買う・作る・着るのだと、それぞれの意義を子に教えることも必要なことだ思います。


大人として、社会人として、母として、嫁として、参列者として、主催者として、それぞれの役割を果たす紋付きの着物姿になることで、きっと周囲からの深い信頼が得られるはずです。


最後に、人生の大切な日に「おめでとう」の気持ちを込めて、参列者が正しいドレスコードの着物姿で参列する。「ありがとう」の気持ちを込めて、主催者が正しいドレスコードの着物姿でお出迎えする。そんな着物姿の人たちが少し増えるだけで、周りに幸せな人が増えてくれるって、すごく素敵なことだと思うのです。

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